プロフィール

劉鵬院鏡

Author:劉鵬院鏡
劉鵬院・剣(b17212)の実の弟■昔色々あったらしいが、今は仲の良い兄弟らしい■人形作製(主にフランス人形)が趣味。部屋には夥しい数(様々な種類)の人形がある。■服装はとある人形を真似ているらしい。女装は趣味ではなく深い意味があるらしい。でも顔が女性的なので違和感ナシ。■普段はワイシャツにジーンズのラフスタイル■「まーアレだ」や「~さね」が口癖。■IBGM:それでは御伽噺を始めよう
プロフ更新:2008/12/29
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 この作品は、株式会社トミーウォーカーの運営する
『シルバーレイン』の世界観を元に、
株式会社トミーウォーカーによって作成されたものです。
 イラストの使用権は作品を発注したお客様に、
著作権はRAWに、
全ての権利は株式会社トミーウォーカーが所有します。
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異形

 まだ火薬が残っていたのか轟々と爆ぜる倉庫。爆発によって飛ばされた破片が鏡の居る茂みにまで飛んでくる。
「…ちとやり過ぎた…かね」
 自分が爆破したとは言えこうも派手になるとは思いもしなかった。
 やがて、爆発音を聞きつけた数人の男がやってきた。数にして1、2、3…ざっと30人は居る。
 どれも黒いスーツに日本刀を持っている。
 暫く様子を伺うも、後続は無い様だった。
 鏡はアサルトライフルの安全装置を外し、マガジンを確認する。
 匍匐姿勢を取り銃床を肩に添える。茂みの隙間から様子を伺い全員が倉庫に意識を向けている事を確認し、引き金を引く。
 タタタタタッ!
 乾いた音と共に数人の男が倒れる。
 近くに襲撃者が居ると解り男たちに緊張が走る。全員が日本刀を構え周囲を見回す。
 鏡は続けて引き金を引く。乾いた音と共にまた数人が地面に倒れた。
 すぐさま他の男が鏡の居る茂みを指差す。銃撃音で居場所が特定されたのである。
「…惜しいねぇ」
 鏡はそう呟き茂みから姿を現した。
「貴様!一体…!」
 男の口は途中で声にならなかった。鏡が立ち上がると同時に乱射したからだ。
「もうちっと早く気付くべきだぜ?」
 鏡は呟きつつも押し寄せてくる男たちに掃射する。
 前を走る者が倒れ、その後ろを走る者は前を走る者に躓く。
「何、殺しちゃいないんだ。そう怒るなよ」
 あっけらかんと鏡は言う。
 鏡は男たちの足さえ奪えばいいと思っていた。実際足しか狙っておらず、重傷者は一人も居ない。
「ま、今回は得物が悪かったさね」
「あらん。それじゃ、こんな得物はどうかしらん?」
 突然背後から声がした。
「っ!?」
 すぐさまその場から飛び退く。が、完全に間合いに入っていたらしく襤褸の端が切り裂かれる。
「かわせる位は出来るみたいねぇ」
 鏡の背後から現れたのは魔法使いが着るようなローブを着た者だった。声から察するに男…だと思われる。最も、口調は男のソレとは違うが。
「てめぇ…何者だ」
「あらあらあら?そんなお決まりな台詞しか言えないなんてあたしゃ残念よぉ!それにママに教わらなかったのかしら?人に名前を聞く時は先ず自分から…てねぇ!」
 言い終わる前に鏡に向かって走り出す男。ローブからは長い鉤爪が覗く。
「ちっ…!」
 鏡は片手でアサルトライフルを乱射し、もう片方で手榴弾のピンを抜く。しかし、そのどれもが通用しない。
 弾丸は明らかに命中し、手榴弾も当たっている。それでも男は怯む様子が無い。
「!?ってめぇ、何者だコンチクショウ!」
 繰り出される鉤爪をギリギリの所でかわしつつ、先ほど鏡が居た所へと戻る。
 置いていた錫杖を手に取り、もう一度アサルトライフルを撃とうと振り返り。
「遅いわよ」
 目の前に女の顔があった。
 左目は無く、右目があるはずの眼窩には蛆が蠢いている。肌の色は温度が感じられない程白く、顔の周りには蝿が集っていた。
「!?」
 鏡は照準も何も無くただただ引き金を引いた。
 腹に足に顔に腕に、カートリッジが空になるまで乱射した。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……し、死んだ…か?」
 男(?)はどう見ても死んでいた。体はローブで隠れて見えないが、出血の量からして明らかに死んでいる。
 …死んでいる、筈だった。
「痛いわねぇ…。流石にこの距離でぶっ放せるとは思わなかったわぁん♪」
 男(?)は何事も無かったかのように起き上がる。見た目は完全な死体だが、声だけは活力に満ち溢れていた。
「いいわぁ!あたしをこんなに痛がらせるなんて久しぶりよ!あ、そうだ。気分がいいからさっきの質問答えちゃうわね♪あたし、ここに住んでるバイアティスって言うの。宜しくねぇん。あ、宜しくする必要無いわね。だってこれから嬲殺ししちゃうもん♪」
 鏡は目の前に居る男―バイアティス―に恐怖を感じていた。明らかに殺したのに事も無げに生きている。体は死んでいると言うのに、存在が生きているのだ。
「…ゾンビか何かかよ…」
 そう愚痴りながらも襤褸にあるカートリッジを抜き、弾を補充する。その間もバイアティス何も仕掛けて来なかった。
 アサルトライフルを襤褸に仕舞い錫杖を構える。このまま撃っても無駄だと判断したからだ。
「あら?あたしと遊んでくれる気になったかしらん?」
「逃げたって追いかけてくるんだろう…」
 するとバイアティスは肩を竦めた。
「うーん、でも遊んでて壊しちゃったら勿体無いわねぇ。あ、そうだ。アンタ達、この子の相手をしてあげてなさい」
 バイアティスは指を鳴らす。すると先ほど鏡に足を打ち抜かれた男たちが起き上がる。
「な…!?」
 驚愕の声を上げる鏡。何しろ立てないよう打ち抜いたのだ。それがどうして立てるのか…?
「…!こいつ等…」
 鏡が何かに気付く。バイアティスは満足そうに答えた。
「そうよん。ソイツ等はあたしが一度殺しといたのよ。あたしには不思議な力があるのよ。死体を操る力が。アンタもお子ちゃまじゃないんだから、意味解るでしょん?」
 説明している間にも鏡を包囲していくゾンビ達。どれも動きが緩慢ではあるが数が多い。
「さーて。アンタはこいつ等と遊んで貰うわ。で、こいつ等に勝ったらあたしが遊んであげる。どう?まだ長く生きれるのよん?」
 バイアティスはさも楽しそうに言う。
「…こんな奴等、どうとでも…」
 鏡は近づいてくるゾンビに対し乱射する。
 ゾンビ達は撃たれた時に動きを止めるが、またすぐ歩き出す。近づいてきた者を錫杖でなぎ払うも、効果は見られない。
 一転突破を計るも、周囲のゾンビが穴を埋める為逃げ出すには至れない。
「あらん?ちょっとやり過ぎちゃったかしらん?」
 ゾンビに囲まれ追い詰められる鏡を見たバイアティスは詰まらなそうに言う。
「ま、いいわ。とりあえずお仕事しとかないとねん」
 バイアティスはそれから暫くゾンビ達に鏡を嬲らせ、身動きが取れないよう自由を奪った。
「今ここで嬲殺しに出来ないのが残念ねぇ。あ、お兄さんの前で惨殺ショーってのもオツかしらん?ああん、楽しみだわぁ!」
 後にはバイアティスの狂笑だけが残っていた。
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その玩具の様な宝の輝きを

 雲ひとつ無い澄んだ空。
 幾星霜と輝き続ける星がある。
 そんな夜の空気は澄み渡り、冷えていた。
 空を見上げ、星を見る。…予想よりも美しい事に感嘆する。
 今までこうして星を見ることは無かった。こんなにも綺麗だと言うのに、何故自分は見なかったのだろうかとふと思った。
 ベッドで横になってふと窓の外にある夜空を見ようと気紛れを起こしただけだ。その気紛れがこんなにも綺麗な物を見つけれるとは思わなかった。
 外にはまだ自分の知らない事が沢山ある…。そう思わされた。
「…そろそろ冷えるな…。戻るか」
 夜風が堪えると感じ俺は部屋に戻ろうと足元に視線を戻す。
 その時、視界の端に見知った姿を見つけた。
 こっちには気づいていないのか、空を見上げている。
 自分も釣られてもう一度空を見る。
 どうやら彼女が見ているのは無数の星ではなく、大きく浮かぶ月のようだ。
 月は満月でも半月でも、勿論月食でもなく所謂上弦の月と呼ばれるものだ。
 太陽の光を反射し、銀に光る夜空の月。太陽の様に恵みの光を齎すわけでも無い。しかしその光は熾烈な輝きとは違いながらも鋭く、うっすらと地上を照らす。
 それはまるで、夜道を這う旅人に灯す、命の煌きの様に。
 そこでふと思い出す。月に映る影は兎に似ている、と。
 兎は寂しくなると死んでしまう。そんな噂を聞いたことがある。
 だが実際は群で行動するとストレスが溜まるのでそんな事は無いと知ってはいる。だが、もし一人で行動をするのであれば何か道標が欲しいと思うだろう…。
 そこで自分は夢想する。
 兎は、月が照らす道標を辿って月にたどり着いたのかもしれない。
 だが、動物は単体では生きられない。ではあの兎にも番が居るのだろうか…?
 月と太陽。もしかすると、あの太陽に番が居て、仲間の月を気にしてあんなにも輝いているのではないだろうか…?
 常にお互いの姿を見れるようにと太陽は月を照らし、月は太陽の光を受けてささやかながらも輝く…。だとしたら、太陽はそのささやかな光に気づいているのだろうか。自らの光でその小さな光を消してしまわないよう、気をつけなければいけない…。
「…降りるかね」
 しばし夢想した後、彼女の元へ降りる。
 部屋に戻り上着を取り、寮の外へ。
「……だろうな…」
 外へ出た時、彼女は何かを呟く。
 何を言ったかは聞こえなかったし、聞こえてもそれは自分に向けて言った言葉ではなかっただろうから、聞かなかった振りをする。
 一歩歩き出したとき、丁度彼女が振り返った。
 彼女は何も言わず、駆けてくる。
 自分も何も言わず、受け止める。

 染まらぬ揺るがぬ迷わぬ不変と愛を胸に

狼煙

 鏡は暗い山道を走っていた。
 本家から続く隠し通路から出て兄から指示された地点へ急ぐ。暗くて表情は伺えないが、口ぶりからは焦っているように見える。
「チッ…。あんな複雑怪奇な地下道を通れってのは無理があるぜ…。まぁ、俺も直ぐに出ていれば間に合ってたかもしれんがよ…」
 走りながら鏡は手に持った錫杖を見る。劉鵬院本家の武器庫から拝借したものだ。彼は兄から武器を渡されていたが、どれも必殺の威力を持ったものばかりだった。「敵は殺せ」そう言って武器一式―主に刀剣類―を渡した兄の姿を思い出し、苦虫を噛み潰す表情を浮かべる。
 彼は確かに劉鵬院の名を冠しているが、劉鵬院家の教育を受けているわけではない。受けたのは暗殺に必要な基礎技術のみだ。最も、その基礎技術は完璧に体得している訳ではない。その意味では最も一般人に近い劉鵬院の人間と言えよう。
 なら何故この様な事をしているのか?
 それは彼の生い立ちにも関係するが、(その話は今語ると長くなるので割愛する)端的に述べるとすれば「劉鵬院家に仇成す者の排除」である。
 そしてその手始めとして劉鵬院家が雄とされる一族の屋敷を襲撃する事となった。
 劉鵬院家は暗殺を生業とした一族だが、表立って力の強い者が存在する。世間一般で言う「組」というものだ。そしてその一族が鏡の過去に最も深く関りのある一族なのだと兄から聞かされていた。
 それ故に鏡は自らの意思でこの襲撃に参加した。兄である剣は反対したが、戦略的にも人が多い事に越したことは無いと鏡に説得される形となった。
 しかし鏡は今まで人を殺したことは無い。兄と違い躊躇いもあり恐怖もある。襲撃直前に渡された武器を前に鏡は大きな躊躇いが生じる。
 人は殺さない。そう決めた鏡は兄が出て行った後に武器庫から別の得物を選んだ。それがその錫杖である。それもただの錫杖ではなく劉鵬院家が改良を施した特製の。
 鏡は走りながら錫杖を確認する。長さは鏡の背丈より長くおよそ2mはある。手にはずっしりとした重量感が。「仕込み」のせいで通常の錫杖より重い。その重量に何処か安心感があるな、と鏡は思った。
 山中を走り出してから5分。整備された道へ出た。
「おっと…。ここか」
 立ち止まり周囲を見回す。監視カメラや警備の姿は無い。鏡は背中に背負ったリュックを降ろし中身を出す。
 中から出てきたのはローブのような黒い襤褸。一見布のように見えるが中にはワイヤーが張り巡らされていて、かなり重い。
 鏡はそれを服の上から被りフードを上げる。一見するとファンタジー等で出てくる怪しげな占い師ような井出達となった。
「む…ちっと重いな」
 肩を回しながら着心地の悪さを感じる。
 襤褸を纏った鏡はリュックを茂みに投げ捨て、錫杖を片手に山を織り始めた。

 その日、彼は倉庫の整理を押し付けられていた。
 昼の組み試合で彼だけまともな戦績を上げることが出来なかったからである。
 本来倉庫の整理はローテーションで行われているのだが、今日の当番が彼に無理やり押し付けたのである。
 断ろうにもまともな戦績を出してからと言われ何も言い返せないまま引き受ける事となった。
「はぁ…。どうしてボクは上手くならないんだろう。毎日練習してるのになぁ…」
 彼の練習量は他の人より圧倒的に多いというのは周知の事実だった。だからと言って彼が相手でも手を緩めることは誰もしない。彼自身もその事は知っているし、自分の為にならないというのも理解していた。
 が、いくら努力をしているのを目で見ていても、結果が伴わないのであればその努力すら認めることが出来ないというのが周りの意見である。
 逆に、努力をしていなくとも結果を出せるのであればそれは認められるのである。
「『努力すれば結果は自ずとついてくる』…か。じゃあ努力してるのに結果が付いてこないのは何故…?」
「そりゃオメー、努力の仕方が間違ってるからだろう?」
 急に、返って来る筈の無い返事が聞こえた。
「っっ!?」
 慌てて声のする方を振り返る。しかしそこには誰も居ない。辺りを見回すも、自分以外の人の気配は感じない。
「だ…誰っ!」
 震えた声で尋ねる。誰も答えない。倉庫の中に自分の声だけが反響する。
 彼は怖くなり、腰に挿してある銃を抜きざまに構えた。
 背中を壁に付け背後からの攻撃を防ぐ。注意深く辺りを見回すがやはり誰も居ない。
「……誰も…居ない…?」
 彼は安堵し、やり残した整理を終えてから倉庫を後にした。

 鏡は山道を抜け、ようやく敷地内に辿り着いた。
「やっとか…。山ん下に家を構えるにしちゃ後ろがガラ空きだな。荒事が得意だから何時でも攻めて来いってか?」
 来た道を振り返り呟く。
 目の前には1つの建物が。兄が言うには倉庫らしいが。
 とりあず近づいてみる鏡。倉庫の入口からは弱い光が漏れていた。
 そっと中を覗くと1人の青年が倉庫の整理をしている所だった。
「はぁ…。どうしてボクは上手くならないんだろう。毎日練習してるのになぁ…」
 青年は背中を向けて呟いている。どうやら鏡が居る事に気づいていないようだ。
(…ふむ。よく判らんが罰として掃除をしてる…。って所か)
 おおよそではあるが鏡は青年が何に悩んでいるのか理解した。
「『努力すれば結果は自ずとついてくる』…か。じゃあ努力してるのに結果が付いてこないのは何故…?」
 暫く見守っていると青年はそう呟く。
「そりゃオメー、努力の仕方が間違ってるからだろう?」
 鏡はしまったと思った。青年の愚痴を聞いていたらつい返事をしてしまったのだ。すぐさま扉から離れる。直後、倉庫の中から誰!?という声が聞こえた。
 鏡は念のためと壁を伝い屋根に上って青年が出て行くのを待った。
 幸い、真っ黒な襤褸を纏っているのと、青年が未熟だったのもあり何とか気づかれる事は無くやり過ごす事が出来た。
 鏡は屋根から降り、倉庫の扉を壊して中に入った。
 倉庫の中は手前に食料、仕切りを挟んだ奥に武器が置かれていた。
 鏡は懐から木箱を取り出す。詳しくは聞かなかったが簡易的な爆弾らしい。
 それを2つ取り出し、食料と武器の置いてある場所に1つずつ設置する。
 鏡は導火線に火を点けようとしてあるものが目に留まった。
「ほぅ…。これは」
 武器庫の奥にガラスで厳重に保管されているモノを見つけたのである。
 手に持った錫杖でガラスを叩き割り中身を引きずり出す。
 厳重に保管されていたモノとはアサルトライフルだった。それも弾薬も込みでだ。
「いざとなったら使おうかね」
 そう言い鏡はアサルトライフルと弾薬を襤褸の中に仕舞う。アサルトライフルの銃身が邪魔で屈み辛いが、大したことはないだろうと鏡は思った。
 他に使えるものはないかと漁って見ると手榴弾や閃光弾等のオプションやコンバットナイフ等の小物を見つけ、鏡はそれをローブに仕込んで行く。
 ローブの重さが当初の3倍にまでなった頃、これ以上は動きづらいと判断し、爆弾の導火線に火をつけた。
 鏡は急いで倉庫から出、近くの茂みに身を潜めた。
 そして数瞬、腹に重く響く重音の後、倉庫が火に包まれた。
 轟々と燃え盛る炎を見て、鏡は人が来るのを待った。

 狼煙は上がった。
 剣は音のした方を見、黒煙が立ち上るのと微かな炎の色を見た。
「…時間だな」
 剣はもう一振りを抜き、二振りの日本刀を構えて歩き出した。
 目指すは本邸。そこに居る人間だ。

 惨劇はもうすぐ、開演となる。

潜入

 深夜、劉鵬院剣は本家の武器庫に居た。闇に紛れる様な黒い外套―銀誓館学園の制服をアレンジしたようにも見える―に腰には二振りの日本刀を刺していた。
 目の前には夥しい数の日本刀が掛けられている。その内の一振りを右にスライドさせる。
 すると、壁という壁から歯車が噛み合う音がする。日本刀を掛けていた壁が奥に沈み、左右へスライドする。壁の奥には地下へと続く階段があった。
 劉鵬院家には他のからくり屋敷と違っていた。
 殆どの隠し通路はこの武器庫に集められていた。本邸や離れ等にもあるにはあるが、圧倒的に少ない。何故武器庫に集められているのかは一握りの人間しか知らない。剣もその数少ない人間であった。
 階段を降り、明かりの少ない地下の通路を進む。
 電球は付いているが、数が少ない。フィラメントが切れかけているのか、明滅しているのが殆どだ。
 地下通路を歩いていると何かが靴に当たった。電球の明かりが弱いので細部は分からないが、何かが蹲っているようだった。
 足で軽く蹴って見るが反応が無い。丁度その時、頭上の電球が灯った。一瞬だが、ソレはボロを纏った白骨死体だった。体を丸めたまま死んだのか、一見ではボロの塊に見える。
 剣は白骨死体を確認し、静かに目を閉じた。
 この地下通路は迷路のようになっている。剣が入ってきた通路以外も出口は沢山ある。例え出口まで出れたとしても、扉は閉ざされている。開けるにはその扉毎の暗号を解読するか、物理的に破壊するか、外から開けて貰うの三択である。
 剣は道を知っているのか、迷うことなく進んで行く。
 地下通路に入って四時間。剣は通路の壁に向き合っていた。
 一本道の真ん中にある壁は何の変哲の無い壁に見える。剣はその壁のブロックを蹴り倒す。
 鈍い音と共に壁が崩れていく。壁の奥には上に伸びた階段があった。どうやらこの上が剣の目的地のようだった。
 腰に刺した日本刀を一振り抜く。その日本刀の刀身は暗い通路の中でもより暗く、漆黒の刀身だった。
 漆黒の刀を手に、階段を上る。出口は固く閉ざされ、このままでは開かないようだ。剣は目を閉じ、刀を上段に構える。
「………っっ!」
 上段から袈裟斬り、そこからすかさず逆袈裟、横薙ぎにし、逆三角形に刀を走らせる。
 少し遅れて、扉に亀裂が入る。亀裂は刀が通った後をなぞる様に広がり人一人が通れるくらいの逆三角形を形成し、穴が開く。
 剣はその穴を通り、外に出た。

 剣が出た場所は廃れた物置だった。中には何も無く、ただ数十年放置されて積った埃が充満しているだけだった。
 物置から出て辺りを確認する。人が通らないのか、雑草が生え放題で道が見えないくらいだ。
 それでも剣は迷う風も無く歩き出す。周囲を警戒しつつ歩いて約一時間。整備された道に出た。右側には明かりのある建物が見えた。
「……あれは…別邸か」
 剣が出た所は別邸と呼ばれる屋敷の住人が住む場所の近くのようだった。別邸にはその屋敷の所有者とその懐刀と数人のSP以外が住んでいる。
 剣は手にした日本刀を確認し、別邸へ足を向ける。
 別邸の入口には2人の番が居た。どちらも日本刀を持っている。
「……まだ騒ぎを起こす訳にはいかんな」
 剣はそう呟き、明かりのついた窓から中を覗き見る。明かりが点いている部屋はどうやら休憩所のような場所らしく、スーツを着たいかにもな男女が雑談をしているようだった。
 鍵の開いている所は無いかと探していると、部屋の端に1つだけあった。
 剣は懐からスプレー缶のような物を2つ取り出しピンを抜き、窓を開けて投げ入れた。
 それから20秒、もう一度窓の中を覗いて見ると部屋に居る全員が倒れていた。
 剣はそれを見た後、明かりの点いていない窓ガラスを割った。
 音を聞き付け番をしている2人の内1人が別邸に入っていった。番が1人になった時、剣は動いた。
 音も無く背後に忍び寄り、躊躇いもせず袈裟斬り。
「ぐあぁっ!?」
 番の男が悲鳴を上げる。瞬間、喉から黒い何かが生える。剣が後ろから喉を一突きしたのだ。悲鳴は口から出る事無く、喉がヒュー、ヒュー、と悲鳴にならない悲鳴を上げるだけである。
 刀身についた血を払う。袈裟斬りにされ、喉を貫かれた男は絶命する事も適わず、その場に倒れこんだ。
 別邸からは番をしていたもう1人が出てくる気配が無い。確認の為、もう一度窓際へ回り込み中を確認する。
 部屋の中に男は居た。倒れた仲間を介抱しようとし、仲間と同じように倒れたようだ。
 剣が投げ込んだスプレー缶の中身は無色無臭で即効性の神経ガスである。それも空気と同じ重さで皮膚から吸収される。体内に入ると筋肉を引き攣らせ呼吸困難になり、次に心臓の筋肉が硬直し死に至る。殺す事に特化した毒ガスなのである。
 これで、別邸に居る人間は殲滅した。剣は表情の1つも変えず、次の標的の元へ歩き出す。

 本宅が見える雑木林に身を隠して20分。剣はじっと待っていた。
(…まだ来ないのか。…教えた通りにすれば何ら問題は無い筈なのだが…)
 懐から懐中時計を出す。別邸を襲撃してから10分、雑木林に身を隠し20分、自分が予定より10分早く到着しただけというのに気づく。
(…いかんな。焦りは禁物だ…。………しくじるなよ、鏡)
 今はまだ待つだけである。
 予定開始まで………後10分…。

 まだ惨劇は起きていない。

異変

 朝、その屋敷ではいつもと同じ朝がやってきた。
 若い衆は早めに起きて客間や居間、廊下といった共用の場を掃除する事から始まる。ある者は玄関を。ある者は土蔵を。ある者はその屋敷の主が使う物全てを綺麗にしていく。
 若い衆があらかた掃除を終えた頃、その屋敷に居る年寄り達が目を覚ます。服を着替え居間へ。屋敷の中で3番目に広い居間では若い衆が食事の準備や膳を並べている。
『お早う御座います。親父さん』
 年寄りの中で一際異彩を放つ男性に若い衆達が声を揃えて挨拶をする。
 親父さんと呼ばれた男はサングラスを掛けた左目に大きな傷を抱えていた。見るからに堅気の者ではない雰囲気だ。
 若い衆の挨拶に何の反応も示さず男は席に着く。他の者は既に座っている。
 それから親父と呼ばれた男は今日の予定と段取りを話し、膳に箸を付けた。
 他の者もそれに倣う。
 その食事風景は一昔前の日本のようだった。…否、この屋敷では親父と呼ばれた男が法である。場合によっては一昔前の日本の方がマシだろう。
 食事が終わり、親父が部屋を出る。それと同時に部屋に張り詰めていた空気が緩んだ。
 若い衆が膳を下げる。この屋敷では若い衆が最も底辺の人間なのだ。
 これもこの屋敷では何時もの光景。――今はまだ。

 昼、庭で若い衆の3人が輪になって煙草を吹かしていた。
「そういやよー、昨日いい女見つけてさー」
 仕事の合間を縫って3人は下賎な話に花を咲かせていた。
 2人はその話を聞いて嫌らしい笑いを零す。
「ところで、矢島の管轄してるシマで何か問題があったらしいな?」
 煙草を吹かしていた金髪の男がふと思い出したように言う。
「あぁ、矢島な。あいつもいい加減判らないものかね。」
 耳にピアスを空けている男が呆れたように言う。
「俺らも昔みてーに腕っ節だけで生きていける程楽じゃなくなってるってのによー」
 肩まで髪を伸ばしている男が言う。
「まぁ、勝手に破滅してくれりゃ俺らの取り分が増えるってもんだぜ」
 煙草を持つ男が親指と人差し指で輪を作る。他の2人もそうだなと返した。
 そんな彼らにとっては在り来たりな話を続ける。
 これもこの屋敷では何時もの光景。――今はまだ。

 夜、屋敷の人間が殆ど寝静まった頃、異変は起きた。
「ふぁ……ねみぃ」
 警備をしていた若い衆の1人が欠伸をしつつ屋敷の庭を歩いていた。
 手には日本刀をもっている。
 それなりに訓練を受けているのか、見た目以上に隙は無い。一兵卒ぐらいなら何とか持ちこたえる事が出来る程度の腕前は持っている。
「そろそろ交代の時間だな。……ん?」
 携帯で時間を確認する。その時、視界の端で何かが光った。
 何かと確認しようと後ろを振り返ったのを最後に彼の意識は闇へと消えていった。

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